ピロリ菌とは

ピロリ菌（Helicobacter pylori）は、胃の粘膜に生息する“らせん状”の細菌です。強い胃酸の中でも生きられるように、ウレアーゼという酵素を使ってアンモニアを作り、胃酸を中和する能力を持っています。酸素や乾燥に弱く、胃という特殊な環境に適応して暮らしています。細長い体の先には数本の鞭毛があり、これを使って粘膜の中を移動できるのが特徴です。

どのように感染するのか

現在の日本では新規感染は非常に少なく、感染者の多くが幼少期に家庭内で感染したと考えられています。特に、

• 幼児期は胃酸分泌が少なく菌が住みつきやすい
• 家族間、とくに母子間での感染が多い

といった経緯が知られています。
上下水道が整備され衛生環境が良くなった近年、成人になってからの感染はほとんど起こりません。

感染するとどんな症状が出るのか

ピロリ菌がいるからといって、すぐに潰瘍や胃がんが起こるわけではありません。しかし、菌が胃に住み続けると、慢性的な胃炎が続くことがほとんどです。

みられやすい症状

• 胃の不快感
• 胸やけ
• 吐き気
• 胃もたれ
• 食欲不振 など

炎症が長期間続くと胃粘膜が傷みやすくなり、

• 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
• 胃がんの発症リスクの上昇

につながります。実際に、日本の胃がんの多くがピロリ菌陽性者から発生していることが明らかになっています。

ピロリ菌の検査方法

内視鏡を使わない検査

「まず調べてみたい」という方にも選択しやすい方法です。

内視鏡（胃カメラ）を使う検査

治療（除菌療法）について

ピロリ菌の除菌には、

• 胃酸分泌を抑える薬
• 2種類の抗菌薬

を組み合わせた3剤併用療法を1週間行います。
1次除菌で約8割の方が成功しますが、耐性菌などで不成功の場合は2次・3次除菌を行うことで、ほとんどの方が除菌できます（保険診療で対応できるのは2次除菌までになります）。

除菌時の注意

• 指示通りに薬を飲み切ることが非常に重要です
• 自己判断で中断すると菌が耐性化し、治療が難しくなります

除菌後の判定検査

除菌の成否は4週間以上あけてから再検査することが推奨されます。当院では、誤判定を避けるため原則「8週以降」での判定をお願いしています。

除菌後も内視鏡は必要です

ピロリ菌を除菌することで胃がんのリスクは大幅に低下します。しかし、除菌前にすでに長期間の炎症が続いていた方では、胃粘膜に“元の状態には戻りにくい変化”が残っていることがあります。これらの変化が、除菌後の胃がん発生に関わると考えられています。

1. 長年の慢性炎症による「萎縮性胃炎」の残存
   ピロリ菌が胃の粘膜を刺激し続けると、表層の細胞が薄くなり、胃酸や粘液を作る力が弱くなる「萎縮性胃炎」が進行します。除菌によって炎症は改善しても、萎縮が進行してしまった粘膜は完全には再生しないことが多いため、その部分から将来的にがんが生じる可能性があります。
2. 腸上皮化生（ちょうじょうひかせい）の存在
   萎縮性胃炎が進行すると、胃の粘膜が腸の組織に似た状態へ置き換わる「腸上皮化生」という変化が見られます。腸上皮化生は“前がん病変”とされ、除菌しても元に戻りづらいことが多いため、がん発生の温床になりうると考えられています。
3. 粘膜の遺伝子異常がすでに蓄積している場合
   長期間の炎症は、粘膜細胞のDNAに傷を蓄積させます。除菌後は炎症が落ち着くため新しいダメージは減りますが、すでに蓄積した遺伝子異常は残るため、その細胞から時間をかけて胃がんが発生することがあります。

そのため当院では、定期的な胃カメラ検査を継続することを強く推奨しています。

自費診療でのピロリ菌検査・除菌

保険診療でピロリ菌検査を行う場合、胃カメラで「胃潰瘍」「十二指腸潰瘍」「慢性胃炎」などの所見が必要です。「胃カメラは受けたくないが、検査や治療だけ希望したい」という声も多いため、当院では自費での検査・治療もご用意しています。

自費料金